大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(ワ)14243号

原告

中西茂登吉

被告

財団法人基督教視聴覚センター

右代表者理事

飯清

右訴訟代理人弁護士

兼藤光

主文

一  被告は、原告に対し、金八二万〇二五〇円及びこれに対する昭和五八年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一五分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金一四一八万九五六四円及びこれに対する昭和五八年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和二六年一二月被告法人に就職し、昭和五八年二月二日定年により退職した。

2  被告法人には給与規定があって、退職金の支給及び支給額について別紙一のとおり定めている。原告の勤務年数は三一・一七年、勤務中(すなわち、退職時)の給料月額は三八万七一〇〇円であるから、この規定により原告の退職金額を算出すると、次のとおり二四一三万一八一四円となる。

三一・一七(勤務年数)×三八七、一〇〇(勤務中の給料月額)×二〇〇%(勤続満三〇年以上の率)=二四、一三一、八一四円

3  ところが、被告法人は、原告に対し、昭和五八年二月二日の退職時にその一部の九九四万二二五〇円を支給したのみで、残額を支給しない。

4  よって、原告は、被告に対し、退職金残金一四一八万九五六四円と、これに対する退職日の翌日である昭和五八年二月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、被告法人に別紙一の給与規定があったことは認めるが、その余は否認する。

3  同3のうち、被告法人が原告に対し退職時に九九四万二二五〇円を支給したことは認めるが、その余は否認する。

三  被告の主張

1  被告法人では、給与規定中に退職金に関する規定を置いていたが、その規定は、昭和四四年四月一日の改正により別紙一のように定められていた。しかし、この規定は、昭和四五年四月一日に別紙二のように改正され、更に昭和四九年四月一日、給与規定から分離制定された退職金規定として別紙三のように定められた。これが原告の退職時の現行規定であった。

2  昭和四五年の改正は、(1)「円満退職」と「業務の引継ぎ完了」を退職金支給の条件とし、(2)従前の規定で「給料月額」とあるのは、実際には当初から家族手当、住宅手当、職務手当等を除いた「基本給」を計算の基礎にして運用されてきたことにかんがみ、これを規定上も明確にし、(3)従前の規定に「特に功労顕著な者に対しては、別に考慮することを得る」とあるのは不明確であるから、これを明確にしてほしいという職員の要請にこたえて、評価率の定めを設けたものであった。

昭和四九年の退職金規定の制定による改正は、この評価率に関する規定が使用者の恣意を招きやすく、税法上も退職給与引当金積立金額の計算に支障を来すため、労働基準監督署や税務署等と相談して、これを廃止したものである。

3  原告の退職時に効力を有していた規定は別紙三のとおりであるが、これに基づく退職金支給額は、勤務年数一年ごとに、その勤務中(すなわち、その各年当時)の基本給に、その各年が該当する号に定める率を乗じた額を算出し、それらを合計した額となる。ただし、被告法人の内規により、一〇年以上勤務した職員については、「勤務中の基本給」は退職時から逆算して五年前までは「五年前の基本給」とし、その後を「その年の基本給」とする取扱いとなっているので、この取扱いに基づいて計算すると、原告の退職金支給額は、別紙四(略)のとおり九九四万二二五〇円となる。

4  この計算方法は、昭和四九年九月三日開催の部長会で確認のうえ、被告法人理事会に諮り決定したものであり、原告は、当時部長職の一人として、この計算方法を十分知っていた。そして、被告法人においては、現在までのすべての退職者に対し、この計算方法により退職金を支給してきたのであり、原告も、自己の部下の退職に当たってこの計算方法を容認してきた。原告主張の計算方法は、原告独自の規定の解釈によるものであって、このような計算方法を採ると、勤続年数の長短により較差が生じすぎ、非常な不合理を生じる。

四  被告の主張に対する認否。

1  被告の主張1のうち、別紙一の規定が昭和四五年四月一日に別紙二の規定に改正されたことは認めるが、別紙三の退職金規定の経過は不知。

2  同2のうち、従前の規定で「給料月額」とあるのが「基本給」として運用されてきたことは否認し、その余は不知。

3  同3は否認する。

4  同4は不知ないし否認する。

5  原告が在職中に被告法人から交付された退職金規定は別紙一の規定であり、同規定における「給料月額」とは、常識的にその月の固定された給料の一か月分であって、基本給のほか家族手当、住宅手当、役付手当を含むものである。被告が主張する退職金規定の改正及び退職金支給額の計算方法は、原告に対して規定を不利益変更し、規定の字句を不合理に歪曲し、これを一方的に強制しようとするものであるから、労働基準法九三条の趣旨に反し違法である。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の勤務及び退職

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  退職金支給額の算定方法の改正

被告法人に退職金に関し別紙一の給与規定があったこと、この規定が昭和四五年四月一日に別紙二の規定に改正されたことは、当事者間に争いがない。そして、(証拠略)によれば、被告法人の退職金に関する規定は、更に、昭和五〇年三月に給与規定から分離され、退職金規定として別紙三のとおり制定されて、これが昭和四九年四月一日にさかのぼって適用されることになったことが認められる。

このように、被告法人の退職金に関する規定は、原告の在職中に別紙一の規定から別紙二の規定へ、更に別紙三の規定へと改正されている。そして、退職金支給額の算定方法についてこれらの改正経過をみると、別紙一の規定で「給料月額」を算定の基礎としていたのが別紙二及び三の規定では「基本給」を基礎とするものとされ、また、別紙一の規定では「特に功労顕著な者に対しては、別に考慮することを得る」とあったが、別紙二の規定ではこれをなお書きで残しつつも「在職中の職員の勤務態度、勤務実績を勘案して」A率(一四〇パーセント)からE率(四〇パーセント)までの五段階の評価率のいずれかを乗じるものとされ、別紙三の規定ではこうした功労や勤務実績等の評価による支給額の増減を一切考慮しないものとされている。

ところが、(証拠略)によれば、被告法人では、別紙一の規定が施行されていた当時においても、退職金支給額の算定の基礎となる「給料月額」は基本給を意味し、家族手当や住宅手当等はその中に含まれないものとして運用されていたこと、昭和四五年四月一日の給与規定の改正の際には給料の構成が基本給、手当及び割増給から成ることが明示されたので、退職金支給額の算定の基礎についても別紙二のように「基本給」と改めたことが認められる。そして、退職金支給額の算定の基礎として基本給を用いることは、その額が賃金体系の上で不合理に低額にとどまるなどの特段の事情がない限り、通常の方法として首肯し得るものと考えられ、右のような特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、退職金支給額の算定の基礎を別紙二の規定において「基本給」と改めたことは、改正前と同一の趣旨を明確にしたにすぎないものと解することができる。また、功労や勤務実績等の評価は、使用者である被告法人の合理的な裁量にゆだねられるべき事柄であると解するのが相当である。

そうすると、別紙一の規定から別紙三までの規定の改正にもかかわらず、結局、原告が請求し得る退職金支給額の算定方法には変更はなかったものといわなければならない。

三  退職金支給額の算定

そこで、退職金支給額の算定について検討すると、これは、「勤務年数ごとに、勤務中の基本給に次の率を乗じた額」との定めを各号の定めと合わせてどのように解釈するかに係る問題である。

原告は、退職時の基本給に勤務年数を乗じ、更に退職者の勤続年数が該当する号に定める率を乗じて算定すべきものと主張する(原告は、算定基礎は基本給とすべきではないと主張し、これが理由がないことは前記二のとおりであるが、その点をおいても、なおこのように主張しているものと解される)。しかし、このように解することには文理上無理があるばかりか、仮にこのように解した場合には、勤続年数が各号の八段階の区切りとなる年数の直前か直後かによって、その間にだけ説明困難な不合理な較差が生じる。すなわち、例えば、勤続二九年の場合には基本給に乗ずべき係数は五二・二(二九年×一八〇パーセント)、勤続三〇年の場合の係数は六〇・〇(三〇年×二〇〇パーセント)となるから、その間の一年に七・八の差が生じるのに対し、その前後をみると、勤続二八年と二九年との係数の差は一・八、勤続三〇年と三一年との係数の差は二・〇にすぎない。後記のとおり勤続年数の一年に満たない端数を月割りで計算するときには、この不合理性はなお一層明らかになる(例えば、勤続二九年一〇月、二九年一一月、三〇年、三〇年一月の係数は、順次、五三・七〇、五三・八五、六〇・〇〇、六〇・一七となり、二九年一一月と三〇年との間の一か月にだけ極端な差が生じる)。したがって、原告主張のような算定方法を採用することはできない。

これに対し、被告は、勤務年数一年ごとに、その年の基本給にその年が該当する号に定める率を乗じた額を算定し、それらを合計すべきものと主張する。これによれば、「合計する」との点の明示はないものの、確かに「勤務年数ごとに」との文言に沿うものであるし(一年ごとの額が算出されれば、総額は必然的にその合計額となる)、退職金支給額は勤続年数に従って不自然なく累進的に増加することになる。しかし、「勤務中の基本給」との文言は、文理上当然には「その年の基本給」と解することはできないし、仮にそのように解した場合には、ある一年について算出される額は、その後の勤務年数の長短にかかわりなく、その額に固定されたままとなるから、退職時までの間の貨幣価値の変動等を考慮するならば、その後の勤務年数が長くなればなるほど、退職金として実際に支給される時点での価値が低下せざるを得ない結果となる。このような結果が生じることは、長期勤続者ほどむしろ不利益になるとさえ言うことができるのであって、長期勤続の場合にはそれに応じて基本給に乗じる率が上昇することを考慮に入れても、退職金のあり方としてなお十分には首肯し難いところである。

もっとも、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告法人では従来その主張のような算定方法を採用してきており、このように運用することは昭和四九年九月三日の部長会でも確認的に決定されたこと、ただし、同年四月一六日の常務理事会において、勤続一〇年以上の職員については、物価の変動を考慮し、退職時から逆算して五年前までは「五年前の基本給」を、その後は原則どおり「その年の基本給」を算定基礎とすることを内規として決定したこと、そして、現在までに被告法人を退職した職員に対しては、すべてこの算定方法により退職金が支給されてきたことが認められる。しかし、これらの事実があるからといって、被告主張の算定方法が合理的であるとは言い切れないし、むしろ、内規により特例的な算定方法を採用していること自体が、少なくとも退職時から逆算して五年より前の勤務期間について、その主張の原則どおりに計算することが不合理であることを物語っているとさえいうことができる。

したがって、被告主張の算定方法をそのまま採用することもできないが、そこにおいて生じる不合理性は、「勤務中の基本給」を「その年の基本給」と解したことに専ら由来しているものである。ところが、「勤務中の基本給」は、「勤務していた当時の基本給」すなわち「退職時の基本給」と解することも文理上十分に可能であって、このように解するならば、この不合理性は容易に解消される。

このように検討してくると、前記の退職金支給額の算定についての定めは、「勤務年数一年ごとに、退職時の基本給にその年が該当する号に定める率を乗じた額を算定し、それらを合計したもの」と解するのが、文理上も無理がなく、また、それにより得られる結果にも不都合な点が生じないことから、最も合理的な解釈であると考えられる(なお、国家公務員等退職手当法は、乗じる率などに違いはあるものの、基本的には右の解釈と同様の算定方法を採用しており、これは、一つの合理的な定めの例として参考になろう)。

四  原告の退職金支給額

(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告の退職時の基本給は二六万二五〇〇円であったこと、原告の勤続年数は三一年三月であり、三一年を超える三月の端数部分については月割りにして退職金支給額を計算すべきものであること、退職金は職員の退職の日に支払われるべきものであることが認められる。

そこで、前記三の解釈に基づき原告の退職金支給額を算定すると、その額は別紙五のとおり一〇七六万二五〇〇円となる。

そして、被告法人が原告に対し退職金として九九四万二二五〇円を支給したことは当事者間に争いがないから、原告は被告に対し、退職金残金として八二万〇二五〇円と、これに対する履行期の翌日である昭和五八年二月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

五  結論

よって、原告の本件請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 片山良廣)

(別紙一) 給与規定

(昭四四・四・一改正)

第四章 退職金

第十三条 職員が退職した際に、その休職した期間を控除した勤務年数ごとに、勤務中の給料月額に次の率を乗じた額を退職金として一時または分割して当人に支給する。

一 勤続三年以上四年未満 七〇%

二 勤続四年以上五年未満 八〇%

三 勤続満五年以上 一〇〇%

四 勤続満十年以上 第三号の二〇%増

五 勤続満十五年以上 第三号の四〇%増

六 勤続満二十年以上 第三号の六〇%増

七 勤続満二十五年以上 第三号の八〇%増

八 勤続満三十年以上 第三号の一〇〇%増

2 特に功労顕著な者に対しては、別に考慮することを得る。

3 本人に不都合の行為があって解職された場合には、本条の規定は適用されない。

4 雇員は第一項の金額の七〇%を支給する。

第十四条 勤続一年以上三年未満の者、嘱託および臨時雇員の退職については、別に感謝の方法、もしくは賞与を給与することを得る。

(別紙二) 給与規定

(昭四五・四・一改正)

第五章 退職金

第十八条 退職金は勤続三年以上の者で円満な手続きにより退職し、完全な所管の業務の引継ぎを完了した者に支給する。

2 たゞし、勤続一年以上三年未満の者、嘱託、雇員の退職した場合にも、別に感謝の方法または賞与を支給することができる。

第十九条 退職金の支給額は次に定める支給基準額に第二十条に定める評価率を乗じた額とする。

2 支給基準額は、職員が休職した期間を控除した勤務年数ごとに、勤務中の基本給に次の率を乗じた額とする。

一 勤続三年以上、

四年未満の職員 七〇%

二 〃四年以上、

五年〃 八〇%

三 〃五年以上 一〇〇%

四 〃十年以上 第三号の二〇%増

五 勤続十五年以上 第三号の四〇%増

六 〃二十年以上 同六〇%増

七 〃二十五年以上 同八〇%増

八 〃三十年以上 同一〇〇%増

第二十条 評価率は在職中の職員の勤務態度、勤務実績を勘案して次のように定める。

一 A率 特に成績優秀なものに対し一四〇%を乗ずる。

二 B率 成績やや良好なものに対し一二〇%を乗ずる。

三 C率 通常の成績を有するものに対し、一〇〇%を乗ずる。

四 D率 やや成績の劣るものに対し、六〇%を乗ずる。

五 E率 成績のきわめて悪いものに対し、四〇%を乗ずる。

2 なお、特に功労顕著なものに対しては、別に考慮することができる。

(別紙三) 退職金規定

(昭四九・四・一施行)

第一条 この規定は、執務規定第三十九条の規定にもとづいて定める。

第二条 退職金は勤続三年以上の者で、円満な手続きにより退職し、完全な所管の業務の引継ぎを完了した者に支給する。

2 ただし、勤続一年以上三年未満の者、「嘱託、雇員」の退職した場合にも、別に感謝の方法または賞与を支給することができる。

第三条 退職金の支給額は、職員が休職した期間を控除した勤務年数ごとに、勤務中の基本給に次の率を乗じた額とする。

一 勤続三年以上、

四年未満の職員 七〇%

二 四年以上、

五年〃 八〇%

三 五年以上 一〇〇%

四 十年以上 第三号の二〇%増

五 十五年以上 第三号の四〇%増

六 二十年以上 第三号の六〇%増

七 二十五年以上 第三号の八〇%増

八 三十年以上 第三号の一〇〇%増

(別紙五) 原告の退職金支給額

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!